ピクトグラムとは表現対象である事物や情報から視覚イメージを抽出,抽象化し,文字 以外のシンプルな図記号によって表したものである。ピクトグラムを用いることで,文章 のみを用いる場合よりも直観的に情報を伝達することができ,人種や年齢を問わずに理解 できるという効果が期待されている。ピクトグラムを公共図書館の利用案内に活用するこ とで利用案内をより直感的に理解可能にできると考えられるが,まだ限定されたピクトグ
ラムしかJIS,ISO等で標準化されていない。そこで本研究では,利用案内での活用の際に
必要となる公共図書館用のピクトグラムの作成を目的として研究を行った。
全国17館の公共図書館ウェブ利用案内に記載されている用語を収集し,それらを分類し て分類表にまとめた。ピクトグラムとして作成する用語を分類表から決定し,それらに対 応する 26 個のピクトグラムを作成した。作成したピクトグラムに対する評価実験として, 事前に同意の得られた対象者への直接配布による質問紙調査(4件)およびウェブによる質 問紙調査(47 件)を行い,直接配布の対象者にはインタビュー調査も行った。質問紙調査
では,図書館の利用頻度,提示したピクトグラムの意味を示すキーワードの選択,ピクト グラムとその横に提示したキーワードとの一致度などを調査した。インタビュー調査では, ピクトグラムのどの部分が分かりづらかったかなどについて質問した。
ピクトグラムの意味を示すキーワードを選択するという調査で,正答率が80%以上のピク トグラムを高正答率ピクトグラム,60%以上 80%未満のピクトグラムを中正答率ピクトグラ ム,60%未満のピクトグラムを低正答率ピクトグラムとした。また,ピクトグラムとキーワ
ードとの一致度の調査において五段階評価で平均 4 以上の評価が得られたピクトグラムを 高一致度ピクトグラム,3以上4未満のピクトグラムを中一致度ピクトグラム,3未満のピ
クトグラムを低一致度ピクトグラムとした。
高正答率で高一致度のピクトグラムは 26 個中15 個存在した。正答率,一致度が共に高 いピクトグラムに関しては,公共図書館の利用案内等で活用しても高い理解度が得られる であろうと考えられる。高正答率のピクトグラム22個の内6個は一致度が中程度以下であ った。これらのピクトグラムは,意味は一応理解されるが,利用者のイメージに適合する ための工夫がさらに必要と考えられる。少しの差ではあるが公共図書館の利用頻度の高い 利用者の方が正答率が高く,図書館で用いられている用語になじんでいる人の方がイメー ジしやすいと考えられる。
本研究で作成したピクトグラムの理解度が全体的に高かったことから,公共図書館用ピ クトグラムの作成可能性が示された。また,ピクトグラムの理解度をさらに高めるための 条件の一部が明らかとなった。
(指導教員 緑川信之)